修道士カドフェル

Twitterも先行き不透明になってきたようだし、読書感想文こっちにも書こう。

Kindle unlimited で、もう返却してしまったのでタイトルを思い出せないが、「世界中の言語について、言語学者が(よく知らなくても)適当に語る本」みたいな書物の、たぶんウェールズ語のところで紹介されていた、「修道士カドフェル」シリーズ。
とりあえず、1作めから読んでみようと思い、図書館で借りて読んでとても気に入ったので、以後毎週1冊ずつ図書館で予約して、いま4作目まで読んだ。もちろん今後も楽しむつもり。なんて有り難いシステムだろう。

Wikipediaで見ると…

聖女の遺骨求む (A Morbid Taste for Bones)
死体が多すぎる (One Corpse Too Many)
修道士の頭巾 (Monk’s Hood)
聖ペテロ祭の殺人 (Saint Peter’s Fair)
死への婚礼 (The Leper of Saint Giles)
氷の中の処女 (The Virgin in the Ice)
聖域の雀 (The Sanctuary Spallow)
悪魔の見習い修道士 (The Devil’s Novice)
死者の身代金 (Dead Man’s Ransom)
憎しみの巡礼 (The Pilgrim of Hate)
秘跡 (An Excellent Mystery)
門前通りのカラス (The Raven in the Foregate)
代価はバラ一輪 (The Rose Rent)
アイトン・フォレストの隠者 (The Hermit of Eyton Forest)
ハルイン修道士の告白 (The Confession of Brother Haluin)
異端の徒弟 (The Heretic’s Apprentice)
陶工の畑 (The Potter’s Field)
デーン人の夏 (The Summer of the Danes)
聖なる泥棒 (The Holly Thief)
背教者カドフェル (Brother Cadfael’s Penance)
修道士カドフェルの出現 (A Rare Benedictine、短編集)

これでシリーズ全部かな?
4作目まで、つまり聖ペテロ祭まで読んだ。次の「死への婚礼」(違う邦訳のだけど)を予約中。

ここまでの、覚書

1.聖女の遺骨求む
修道士カドフェルが、公務で随行していった先の故郷ウェールズでたまたま遭遇した殺人事件に、突然探偵っぽい本格的考察を始めだすのがちょっと驚きだった。
カドフェルは読者から見れば初登場だけど、すでに中年で修道士生活も長い。彼にしてみれば突然探偵っぽいムーブを始めたわけではなく、以前からこんな感じで殺人事件に遭遇しては解決してたんだろうな~。この1作め以後も、毎回殺人に関わっている。若い頃に十字軍兵士として戦った時代から、ずっと殺人と関わり続ける人生なんだろう、恐ろしい。
このシリーズの魅力は、きっと修道士カドフェルの穏やかで実直な人柄なんだろうな。この人がいるかぎり、「最後はハッピーエンドになるだろう」という水戸黄門的な安心感がある。敵対的なキャラもいるけど、どうにも小物っぽく、カドフェルの敵ではない。
この話は、カドフェル自身が、中世にありながら(その人生経験によって)、当時信じられていた土着の迷信を全く信じないのに対して、「現実」の方が迷信を現出する結末のスパイスは面白かった。いや、それらの「聖女の奇跡」も伝聞だから、すでに尾鰭がついているのかもしれない。

2.死体が多すぎる
たぶん史実と重なっている話なのだろうな。イギリスの歴史は全然知らんから、これはこれで勉強したい。
スティーブン王と女帝モードの王位継承をめぐっての争いを背景にした、カドフェルの修道院があるシュルーズベリの街の攻略戦。街は女帝側についていたがスティーブン王の攻撃に敗れ、捉えられた捕虜はみんな絞首刑…で、修道院がその犠牲者を弔おうとしたら、そこに無関係な他殺体がまぎれこんでいた。という話。
このシリーズの特徴は、探偵役のカドフェルが、常にその事件の当事者(少なくとも、直接巻き込まれている)ということだと思う。そして自分自身が重要な目撃者だったり、気付かぬうちに証拠品を持っていたりする。ホームズにしろコロンボにしろ、職業探偵や刑事は職業上、自分と無関係な事件に、無関係な他人として首を突っ込んでいくことになるわけだけど。
この話の場合、やはり埋葬を担当する修道院の一員として、「弔うべき遺体の数が合わない」と気づく立場にあった。
紛れ込ませた犯人の方は、ひとりくらい増えても気づかれない・気づかれたところで時節柄問題にされないと踏んだ・・・ずいぶん楽観的なやつだ。
こいつは、あろうことか自分が殺した男の身内の若い女性に、その悲しみにつけこんで交際を迫るようなことまでしている鬼畜で、最後はそれを知った恋敵との決闘で敗れて命を落とすのだが、この決闘で勝ってたらどうなってたんだ? 恋敵の方は、多すぎる死体の件とは明らかに無関係だし。
颯爽たる恋敵のせいで、最終的にカドフェルがどういう役割をしたのか、私にはすでに思い出せない。
そういえば、カドフェルはこの防衛戦の指揮者の娘を修道院に匿い、無事に脱出させるのに力を尽くし、それがこの話のメインの流れになっているのに、これは殺人事件とは全然関係ないんよね・・・人間関係としては密に繋がっているけれど。

3.修道士の頭巾
「修道士の頭巾」は、トリカブトの異名だそうだ。
カドフェルは修道院の薬草園を担当していて、これが物語の随所で重要な役割を担う、というか犯行に用いられる(第1話でもそうだった)。カドフェルがその事件の謎解きをするのは、ある意味マッチポンプのような気がしないでもない。
この話では特に、直接そのトリカブトが犠牲者の死因だ。
カドフェルのライバル側の小物が、過去のロマンスと結びつけて「カドフェルこそ怪しい」的なことを言い出したりもしているが(小物すぎてボヤにもならなかった)、彼の薬物を用いた殺人事件が周囲に多発してたら怪しまれても仕方ない(汗)
このシリーズのパターンとして、若い男女が簡単にカップルになるのがファラララ感があって面白いのだが、今回はそういう若人は登場せず、カドフェル自身の昔の恋人が出てきた。が、彼は修道士なので特に何かがあるわけでもなく、別にその設定はなくても展開に違いはなかった気もする。元恋人の子たちがカドフェルを信頼する根拠にはなっているけれど、カドフェル自身がけっこうな人たらしだからなぁ。
最初、立場的にいかにも怪しいと思った人物が、結局犯人だったけど、動機は思ったのと全然違っていた。衝動的な犯行で、同情の余地があるような流れではあったけど、犯行当時はそうだったとしても遺産狙いの裁判を起こした時点でそうは言えまい。カドフェルが偶然その裁判に居合わせなかったら、どうなってたんだろうか。

4.聖ペテロ祭殺人事件
大出健氏訳では、こういう訳になってる。いかにもミステリだけど、チープなような。
こちらは2作目と同様の歴史ミステリ(?)で、軍事機密をめぐっての攻防ということになるのか。
でも、犯人側が自分の主君への忠誠心から殺人を重ねてでもその機密を奪おうとしている、ってわけではなく、自己中な野心からというのが、善悪を単純にしている気はする。要は、ただの悪人なので、非業の最期を遂げても全く可哀想ではない。それにしても、せっかく娘をたらしこんでいたのに、そのまま色仕掛けで機密を得ようとしなかったのは解せぬ。
政治的な対立に関しては、善悪でジャッジせず、平等に描かれているのは面白いと思う。そこはやはり「修道院」という(少なくとも建前上)世俗を超えた立場がものを言っているのかもしれない。前作から院長が変わり、パワーアップしたために、副院長一味がますます小物っぽくなって、ライバル陣営として脆弱すぎて物足りない・・・いや別に、ライバルが必要なシリーズでもないけど。
ここまで読んできて、
・ウェールズ人に悪人はいない
・女性と子供に悪人はいない
みたいなパターンが見えてきた気がするけど、この先はどうなんだろう?
今回のファラララは、ヒロインの少女と、最初の容疑者の若者。
ストーリーを追ってみると、カドフェルはあまり出てこない(汗)。最初の争いの目撃者にはなってるんだけど、それも結局カムフラージュとなるエピソードなだけで、事件とは関係ないし。

次は「死への婚礼」、図書館で予約中。

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