音の物理学的な正体は、波動だ。
楽器や声帯の振動が、空気中を波動(疎密波)として伝播し、耳に届く。
水中なら水を介しても伝わる(ちなみに水中の方が速く伝わる)。
が、間に何も振動を伝えるものがない真空中では、音は伝わらない。
「音の高さ」は、この振動の速度のことだ。
高速な振動は、人の脳には「高い音」として認識される。
この振動の速度を、周波数という。
周波数の単位 Hz(ヘルツ)は、1秒あたりの振動数を意味する。
たとえば、440Hzとは、1秒に440回空気が振動しているということだ。
厳密に「絶対的な音の高さ」は、周波数で表現する以外にない。
「基準のラ」と言っても、それは440Hzかもしれないし、442Hzかもしれない。
以下でいう「絶対的な音の高さ」というのは、そこまで厳密な意味ではなく、「相対的な音の高さ」に対する対立概念として理解しなければならない。
固定ドの「基準のラ」は、だいたい440Hzということになっている。
ここからドレミファソラシドを作ると、例えば平均律なら
音名 |
周波数 |
ド |
261.63 Hz |
ド# |
277.18 Hz |
レ |
293.66 Hz |
レ# |
311.13 Hz |
ミ |
329.63 Hz |
ファ |
349.23 Hz |
ファ |
369.99 Hz |
ソ |
392.00 Hz |
ソ# |
415.30 Hz |
ラ |
440.00 Hz |
ラ# |
466.16 Hz |
シ |
493.88 Hz |
ド |
523.25 Hz |
ということになる(Excelで計算した)。
個々の数値はどうでもいいが、「平均」はリニアな等分割ではない。
(ある音より半音高い音は、常に12√2=1.059463…倍の周波数となる。これを12回繰り返すと2倍=1オクターブとなる仕組み)
このように使われた「ドレミファソラシド」は、直接に周波数と結びついた、「絶対的な音の高さ」の名前ということになる。
これを「音名」という。
このドレミ・・・はイタリア語だそうだ。
日本語・ドイツ語・英語ではこうなる。
イタリア語 |
日本語 |
ドイツ語 |
英語 |
ド |
ハ |
C(ツェー) |
C |
レ |
二 |
D(デー) |
D |
ミ |
ホ |
E(ツェー) |
E |
ファ |
ヘ |
F(エフ) |
F |
ソ |
ト |
G(ゲー) |
G |
ラ |
イ |
A(アー) |
A |
シ |
ロ |
H(ハー)※ |
B |
(フラット(♭)系)
イタリア語 |
日本語 |
ドイツ語 |
英語 |
ド♭ |
変ハ |
Ces(ツェス) |
C |
レ♭ |
変二 |
Des(デス) |
D♭ |
ミ♭ |
変ホ |
Es(エス) |
E♭ |
ファ♭ |
変ヘ |
Fes(フェス) |
F♭ |
ソ♭ |
変ト |
Ges(ゲス) |
G♭ |
ラ♭ |
変イ |
As(アス) |
A♭ |
シ♭ |
変ロ |
B(ベー)※ |
B♭ |
(シャープ(#)系)
イタリア語 |
日本語 |
ドイツ語 |
英語 |
ド# |
嬰ハ |
Cis(ツィス) |
C# |
レ# |
嬰二 |
Dis(ディス) |
D# |
ミ# |
嬰ホ |
Eis(エイス) |
E# |
ファ# |
嬰ヘ |
Fis(フィス) |
F# |
ソ# |
嬰ト |
Gis(ギス) |
G# |
ラ# |
嬰イ |
Ais(アイス) |
A# |
シ# |
嬰ロ |
His(ヒス) |
B# |
「シ」に相当するドイツ音名は変則的なので注意。
ダブルフラット(重変)やダブルシャープ(重嬰)に対するドイツ語の固有の名称もあるけど(原則、esesとかisisがつく)、カンタの先生もあまり使わないから省略。
ドイツ語音名は、調性の名前を指すときにも使うことが多い。
・dur(ドゥア)=長調
・moll(モル)=短調
という言葉をつけて、例えば
・G-dur(ゲードゥア)= G major =ト長調
・a-moll(アーモル)= a minor =イ短調
(長調は大文字、短調は小文字で書く習慣があるらしい。でも、日本語でィ短調とは書かないと思う)
「G」も「ト」も、要するにドレミの「ソ」で、ソ=392.00 Hzを主音(音階の最初の音)とする長調、ということ。
日本語の音名は、調性の名前以外にほとんど使わない気がする。
だから「変へ」とか「嬰ロ」なんて目にすることはない(そんな名前の調はないから)。
音名の話は、いったんここまで。
—
音名に対して、階名は「相対的な音の高さ」を指す。
(ただし、音名とごっちゃにしてる人もそれなりにいる・・・)
さっき、G-durの例を書いたけれど、同様に
「C-durは、ド=261.63 Hzを主音(音階の最初の音)とする長調」
「D-durは、レ=293.66 Hzを主音(音階の最初の音)とする長調」
「E-durは、ミ=329.63 Hzを主音(音階の最初の音)とする長調」
・・・
で、これらの長調の「主音」を、周波数に関わらず全て「ド」と呼ぶのが階名であり、移動ドだ。
(短調なら主音は「ラ」と呼ぶ)
音階とは・・・って説明するまでもないわりに正確に説明するのはけっこうめんどくさいので、そこは飛ばす。
とりあえず、その調を構成する7音が
全全半全全全半
の間隔で並ぶようになる開始位置が、その長調の主音だ。
このあたり、指揮者先生の話で説明抜きでよく出てくる言葉などについて、ちょっと書いてみる。
話を簡単にするために、ハ長調Cdurの例で見る。
ハ長調の主音は、ド=C(ツェー)。
確認するには、楽譜の最後のバス音を見る。バスがdiv.だったら、バス下の音だ。
曲の最後のバス音は、ほぼ常に、その調の主音になっている。
それは和声学のルールのうちでも、かなり厳密に守られていると思う。
ただし、和声学以前の古い曲とかではアテにならない。
(調性の概念自体が未成立だったりするらしいので、仕方がない)
実用上、一番簡単な見分け方はそうなるけれど、途中で転調したりしていたら、この手は使えない。
原則的には、調性は調号から読み取る。
根本的な規則を言えば、
#が一つ増えるたびに、主音は完全5度高くなる
♭が一つ増えるたびに、主音は完全5度低くなる
つまり、
0(C)→#1(G)→#2(D)→#3(A)→#4(E)→#5(H)→#6(Fis)→#7(Cis)
0(C)→b1(F)→b2(B)→b3(Es)→b4(As)→b5(Des)→b6(Ges)→b7(Ces)
となるけど、いちいち数えるのは大変だし間違える。
調号がつく順番は、
#「ファドソレラミシ」
♭「シミラレソドファ」
(このドレミは音名、五線譜上の位置と思うのが良い)
逆順なので、どちらかを覚えれば良い(が遡るのは面倒なので両方覚えた方が良い)。
楽譜上、視覚的に覚えるのはもっと簡単で、#の場合は最初の「ファド」だけ覚えれば、あとは交互に1音ずつ上に書いていけばよいし、♭の場合は同様に最初の「シミ」のあとは交互に1音ずつ下に書いていけば良い。
これに関しては、長調でも短調でも違いはない。同じ調号で書かれる長調と短調は平行調という。
で、その調号から
・#系の場合=最後(一番右)の#の、半音上が「ド」
・♭系の場合=最後から2番めの♭が「ド」
と読むのが一番簡単だと思う。
例えば、#が4つなら、最後の#は「ファ#ド#ソ#レ#」のレ#(Dis)、主音はその半音上のE。
♭が3つなら、「シ♭ミ♭ラ♭」の最後から2番めはミ♭(Es)だから、主音はそのEs。
ただし。
見た目の調号と違い、実際には臨時記号で処理していて別の調になっている・・・ということもあり、調号で100%見分けられるわけではない。「風紋」とかそうだったし、ことしの木下牧子も部分的に転調してるとことかけっこうあった・・・。
ともかく、「主音」が分かったとしよう。ハ長調ならCだ。
音階の中の音には、「主音」ド以外にも、特別な名前を持つ音がある。
「属音」音階中の第5音ソ
「下属音」音階中の第4音ファ
「導音」音階中の第7音シ
ただし、「導音」は主音に導く音という意味なので、次に主音が来るときにしか使わない。
つまり、長調でシ→ド、という音の並びならシは「導音」だけど、シ→レ、などと進行する場合のシは「導音」ではない。
先生が「導音は高めにとれ」というのも、「シド」と続くときのシは高くとれ、という意味だ。
これはむしろ短調の場合が重要で、短調の導音は、主音ラを導くソ#であり、この#は高めにとらないと怒られる。
逆に、ラに行かないソ#を高くとると「これは導音じゃない」と怒られる。
これらの音に名前がついているのは、音階の中での役割や性質に基づく。
「導音」はそういうことだし、「属音」ソにも、非常に強く主音に向かう性格がある。
最近、先生が「属音が正確でないと、主音が狂う」というようなことを言っているのは、そういう話だ。
G-durの主音ドはGで、属音ソはD(Gから数えて第5音)だ。